嘗てエル=ファシル王朝の宮殿があった場所にその塔は建てられていた。広大な砂漠に建てられた天をも突き刺そうとそびえる巨大な塔。それは神王教団によって建てられた”神王の塔”であった。
 そしてその塔の上層部にある礼拝所には、多くの信徒が集まっていた。
「我等が偉大なる神王様を信奉する神王教徒の諸君。本日こうして信徒共が無事この塔に集結し会えたのも、一重に神王様のご加護の賜物である」
 礼拝所の祭壇に立つ黒装束を身に纏った老人が静かに語り出した。この男こそ神王教団の事実上のトップである神王教団長であった。
「さて、死食が世界を混乱の渦に巻き込んでから既に十五年。一見死食の傷痕は癒え、世界は立て直しつつあるように見える。
 だが、近年モンスターの活動が活発になっているように、それは虚構でしかない。ある高名な天文学者は、かのアビスゲートは復活し、アビスの魔貴族共がこの世界に対し侵攻する機会を狙っていると予言した。人々の見えぬ所で世界は死食の時以上の混乱と絶望の世界へ向かっている」
 ある高名な天文学者とは言うまでもなくゼッフルのことである。世界中から誹謗と中傷にさらされたゼッフルの研究は、意外な所で支持されていた。しかしそれも神王教団の信徒を集める為の手段に利用されていたに過ぎなかった。
「しかし、恐れることはない。嘗て魔王、そして聖王が生まれ出たように、十五年前の死食でもまた、”運命の子”はこの世に生まれ出た。
 魔王は世界を更なる混乱へといざない、聖王は世界を平和へと導いた。果たして新たに生まれた”運命の子”は魔王か、それとも聖王か?混乱を誘う者か、平和を導く者か…?
 いや、そのどちらでもない!新たに生まれ出た”運命の子”は、魔王に非ざる者、聖王に非ざる者…。その者は神王!そして我等が信奉せし神王様は世界を混乱へ誘う者でもなく、平和に導く者でもない。神王様は魔王の特性、聖王の特性、その双方を備えし者。即ち世界を破滅させ新生する真の創造主なのだ!
 創造主たる神王様はこの不浄の世界をすべて洗い流し、必ずや新たな世界を築き上げて下さるだろう。そして神王様は自ら築き上げた世界に魔王をも聖王をも超えた神の王、神王としてこの世界の新たなる支配者となるのだ!
 偉大なる神王様の名の元、この神王の塔に集まりし信徒共よ。諸君等の役目は偉大なる神王様によるこの世界の浄化と再構築の手助けを行う事にある!
 神王様を信ずる者は全て我等が同士、快く向かい入れよ。神王様を信じぬ者は全て神王様をけなし、この世界を破滅へと導かんとするアビスの魔貴族の手先なり!神王様を信じぬ者共は神王様のお手を汚す事なく、我等が神王教徒の元で新たな世界の為にこの世界から排除せねばならぬ!
 嘗てこの砂漠には神王様を信じぬアビスの手先たるエル=ファシル王朝が存在した。その王朝は神王様の神罰の元滅ぼされ、罪深き王族共は皆死滅した!
 だが、諸君。神王様を信じぬアビスの手先共はまだまだ世界に尽きることなく存在する。諸君、神王様を信奉せし神王教徒諸君。我等が使命はまずそのアビスの手先共をこの世界から完全に排除する事である!我等が神王様の為に、悪しきアビスの手先共を抹殺しよう!
 全ては我等が神王様の為に!神王様の為に!!」
『ワアアアアアアアア〜〜!神王様!神王様!神王様!神王様!神王様!神王様!神王様!神王様!神王様!神王様!…………』
 天をも突き刺そうとする塔の中で、数百人に及ぶ神王教徒共の熱狂と狂気に包まれた叫びは続く。神王という偽りの神の名を叫び、真の”運命の子”が今苦しみの渦中にいることを知る由もなく……。



SaGa−21「運命の子」


「シオリ、直にランスに着くわよ」
「うん…、お姉ちゃん……」
 ランスを目指すシオリ達の前に、ようやくランスの町並みが見えて来た。あれからシオリは何とか口を開くようになったが、未だ心は罪悪の苦しみからは解き放たれていなかった。
「……」
 己の心の殻に閉じ篭ったままのシオリを見て、カオリは胸が締め付けられる思いだった。あれから自分はシオリを慰めようと様々な言葉をかけた。その甲斐あリ口は聞けるようにはなったが、未だ心は閉ざされたままだった。
 血の繋がった姉だというのに、自分には妹の心を癒すことが出来ない。自分は姉失格だ。そういった自己嫌悪にカオリは苛まれていた。
「お〜い、おお〜い!そこを歩いているのはひょっとしてカオリとシオリじゃないか〜〜!」
「えっ!?うそ…この声…ジュンく…ん……!?」
 自分達の元へ駆け足で近付いて来る男の声に、カオリは途惑いを感じた。その声は紛れもなくサユリを助け自らは行方不明になっていたジュンの声だったからだ。
「ハァ…ハァ…。良かった二人共無事で…。ユウイチにシオリが拉致られてカオリがその後を追い掛けたって聞いたから急いで二人の元へ向かおうと思ったけど、こうして無事に出逢えて何よりだぜ……」
「ちょっと待って、ジュン君。ユウイチ君に聞いた…急いで駆け付けたって……」
 突如目の前に現れたジュンの姿に、カオリは心の整理が着いていなかった。
「ううん…そんなことより、良かった、無事で……」
 心の整理が着いていないカオリだったが、一つだけ整理が着いていた事があった。それは行方不明だったジュンがこうして無事に自分の目の前に居り、そして自分はその無事を心から祝っているという事だった。
 心からジュンの無事を祝うカオリ。その顔にはうっすらと嬉し涙が溢れ出ていた。



「カオリ…どうして泣いてるんだ。俺に逢えたのがそんなに嬉しかったのか?」
 そのカオリの嬉し涙に、今度はジュンが途惑いを感じた。いつもは気丈に振舞い弱気な所を見せなかったカオリ。そのカオリが自分の為に泣いている。
 何故泣いているのか。俺はこうしてカオリの元へ駆け付けただけなのに…。カオリの涙を流す理由がジュンにはイマイチ理解出来なかった。
「うん…だってサユリ様からジュン君が自分を助けて行方不明になったって聞いたから…」
「サユリ様から聞いた…?ってことはサユリ様は生きているのか!?」
「ええ。シオリを救出に向かった時出会ったわ…」
 涙を拭き、カオリはジュンの問い掛けに順を追って応えた。サユリ様がどうやって助かったか、そして今何処へ向かっているかを。
「そうか…。生きてたか、良かった……」
 サユリの無事を聞いて、ジュンは心から安堵した。命懸けでサユリ様を守ったっていうのに自分だけ助かったんじゃ申し訳ないとずっと思ってた…。とにかく無事で良かったと…。
「ああ、そうだ。俺の方は…」
 サユリ様の安否を聞いた後、ジュンは自分がここに至るまでの経緯をカオリ達に話した。リヒテンラーデに流れ着き、ユキトに助けられたこと。そのユキトと共に行動を共にし、薔薇の騎士ローゼンリッターに協力して鼠退治を行ったり、氷湖のモンスターの掃討を手伝ったことを話した。
「もっとも、ユキトが大活躍しただけで、俺は殆ど役に立たなかったけどな」
「そう、ジュン君も色々と苦労したのね。
 それでどうするのジュン君。これから新無憂宮ノイエ・サンスーシーに戻るの?」
「いや…止めとく。あの人が側にいるんなら今更俺がサユリ様に仕える義理はないだろう」
 サユリがマイと共に新無憂宮ノイエ・サンスーシーに向かったことを聞き、ジュンは今更自分が戻る必要はないと思った。
 悔しいが、今の自分にサユリ様をお守りする資格はない。助かったとはいえ危険な目に遭わせたのには間違いない。そんな自分と違い、マイという少女はマスカレイドの所持を認められた程の腕の持ち主だ。そんな彼女に守られる方が自分なんかに守られるよりいいに決まっている。それがジュンの素直な気持ちだった。
「あの…ジュンさん…?ユウイチさんは…ジュンさんに私達のことを教えてくれたユウイチさんは……?」
 今までに口を閉ざしていたシオリが、弱々しい声でジュンに訊ねた。
「ユウイチか?ユウイチならランスでカオリ達を待つって言ってたが」
「それ…何処ですか?」
「う〜ん、何処って言われてもなぁ…。街の一角で偶然会っただけだし、それにユキトがアユの元へ戻れって言ってたから、そのアユって女の所へ戻ったかもしれない」
「そうですか……」
 ジュンの話を聞き、シオリは再び沈黙を続けた。ユウイチさんなら私の苦しみを受け止めてくれるかもしれない。そう思い、シオリはユウイチに救いを求めてランスに向かっていたようなものだった。
 しかし、そのユウイチが今どこにいないか分からないとなると、シオリにとっては希望の糸が絶たれたに等しかった。
「お姉ちゃん、みんな…。ゴメン、少し一人にさせて……」
 そう言い残し、シオリは一人ランスの街中へと向かって行った。



(ユウイチさん…私、どうしたら……)
 逢えないと思いつつも、シオリはユウイチを求めランスの街中をあてもなく彷徨っていた。ユウイチさんなら私の心を癒してくれる筈。その根拠のない願いを満たす為にシオリはユウイチを捜し続けていた。
「あれ…ここは…?」
 ふと気が付くと、シオリはランスの街中を離れ、小高い丘の上に建つ壮大な建造物の前に立ち尽くしていた。
 長い階段の先にそびえ立つ壮大な建造物。その壮大な建造物にシオリは神秘性を感じ、惹き込まれる様に魅入っていた。
「この建物は…?」
「有名な”聖王廟”ですよ。僕も見るのは初めてですけどね」
「ユリアン!」
「ごめん…一人にして欲しいって言ってたけど、どうしてもシオリを放って置けなくて後を追いかけて来たんだ」
「ユリアン…」
 申し訳なさそうにシオリに語りかけるユリアン。そのユリアンの態度をシオリはなんだか嬉しく感じた。
「あ〜、え〜と…シオリ、こんなことを言うのは何だかおこがましい気がするけど、あのその…君を慰めるのはユウイチっていう人じゃなきゃ駄目なのかな?」
「えっ…!?」
「あっ、いや…その…。さっきのシオリ、ユウイチって人に救いを求めてたみたいに見えたから…。だから…その…君を慰めるのは僕じゃ力不足かなって……」
 顔を赤くし緊張した口調で話しかけてくるユリアンに、シオリは少し心が和らいだ気がした。そしてシオリはゆっくりとした口調でユリアンに応えた。
「ううん…そういう訳じゃないんだ…。ただ、ユウイチさんは女の人の苦しみを支えられる人だから…。
 さっきジュンさんが言ってたよね。ユウイチさんはアユっていう女の所に戻ったかもしれないって。そのアユさん、マリーンドルフ商会っていう没落した商会の会長の娘で、今は貧しい暮らしをしてるんです。ユウイチさんは小さい時その人と遊んだことがあって、それだけの関係なのにユウイチさんはその人にこれでもかって位親しみを寄せているんです。それでそのアユさんが貧しい暮らしをしていることを忍びなく思って、アユさんに元の暮らしをさせたいと商会の再興に一生懸命頑張ってるんです。商売なんてしたこともないのに、自分の大切な人の為に全身で尽くして……。
 そんなユウイチさんなら、今の自分の苦しみを癒してくれる、そんな気がして……」
「そうか…凄いんだね、そのユウイチさんって人……」
「うん…。けど、だからといってユリアンに私を慰めることが出来ないってことではないわ。今こうしてユリアンと話をしているだけで、なんだか心が少しづつ癒されてきたし」
「ありがとう。シオリにそう言ってもらえると嬉しいよ」
 ユリアンには自分にも言えないような大切な使命がある。そんなユリアンに自分のことで迷惑をかける訳には行かない。そう思っていたからこそ、シオリはユリアンに心を委ねるのに多少躊躇いを感じていた。
 しかし、ユリアンと話をしている内に、自然とそんな躊躇いはなくなっていった。何だかよく分からないけど、ユリアンと話をしていると心が落ち着いて来る。そのお返しじゃないけど、ユリアンが自分に課せられた使命を話すことがあったなら、今度は自分がユリアンの支えになろう。シオリはユリアンに笑顔で応えながら心でそう誓ったのだった。



「よう、ユリアン。久し振りだな。ようやくランスに辿り着いたか」
「あっ、ユキトさん。こちらこそお久し振りです」
「ユリアン、ユキトさんと知り合い?」
 シオリとユリアンが話している所にユキトが現われた。そのユキトとユリアンが親しげに挨拶を交わしたので、シオリは二人は知り合いかとユリアンに訊ねた。
「ええ。エル=ファシルにいた時からの知り合いです。それよりもユキトさん。ユキトさんと一緒にいる人は?」
 二人の前に現われたユキトは、どこか不思議な雰囲気を持った少女を連れていた。その少女が誰であるかユリアンは訊ねた。
「ああ、この人は聖王家の当主だ。ランスに寄ったついでに聖王廟を見学しようと思って、ちょっと聖王家を訊ねてみたんだ。そしたら聖王家の当主が自分が聖王廟に案内するって言って、こうして一緒に来たって訳だ」
「始めまして。現聖王家の当主のミシオと申します」
「あっ、こちらこそ始めまして。僕はユリアンです」
「私はシオリって言います」
 二人に挨拶して来るミシオに対し、シオリとユリアンもミシオに挨拶をした。
「それにしても、私と年が同じ位なのに、当主っていうのは凄いですね〜」
「別に凄くありませんよ。父も母も早くに亡くなって、仕方なく私が当主を務めているだけです」
 そう言い終えると、ミシオはユリアンに近付いて行った。
「貴方がユリアンですね。貴方のお話は数日前私の元を訊ねた柳也殿から聞いております」
「あっ、柳也さんもここを訪れたんですか」
「らしいな。俺も知らなかったが、師匠は八百比丘尼様にユリアンの手助けをするように言われてこっちに来たらしい。それでミシオさんの話だと聖王家を訊ねた後”氷の剣”を取りに氷銀河に向かったそうだ」
「八百比丘尼?聖王遺物?氷銀河?」
 三人の間で当たり前に交わされている固有名詞がよく分からず、シオリは困惑するばかりだった。
「ああ、ゴメン。シオリにはちょっと分からないか…」
「うん…。差し支えなければちょっと教えてくれないかな?」
「うん、構わないよ。まず八百比丘尼様っていうのは、イーリスっていう背中に羽の生えた種族の長の名なんだ」
 ユリアンの説明によれば、そのイーリスという民は東方に広がる大草原の北側に位置するチカパ山に住まう者達で、背中に羽を生やし、歌により神話や伝承を語り継いでいるという。イーリスは人間より長寿で、イーリスの現長である八百比丘尼は、その名の通り八百年近くは生きているという。
「それで聖王遺物っていうのはその名の通り聖王が残した遺物で、氷銀河っていうのは聖王遺物の一つである氷の剣が眠っている地なんだ」
「ふ〜ん…」
「ちなみに師匠というのは、俺やユリアンに剣を教えてくれた師匠ということだ」
 横入でユキトがそう語った。ユキトの話によれば、柳也は東洋でも1、2を争う剣の達人であり、ユキトの剣技は柳也から受け継いだものをベースに、自分なりにアレンジしたものだという。
「それで、その柳也さんがユリアンの手助けをするってどういうことなの?」
「え、えっと、それは…」
 シオリの質問にユリアンは困惑顔だった。
「ごめん。そればっかりはシオリには言えない…」
「どうして?」
「それは僕の使命に関わっていることだから…」
 今その理由を話せば、シオリを巻き込むことになり兼ねない。そう思い、ユリアンは硬く口を閉ざしたのだった。
「……」
「どうしたんです?ミシオさん…」
 気が付くと何時の間にかミシオがシオリに近付いており、ジーッとシオリの顔を眺めていた。
「やはり…柳也殿の言っていたことは本当でしたね…」
「?」
「いえ、柳也殿が以前貴方にお会いした時、貴方の目が気になったと私に語ったのです」
「私に会った?」
「はい。ミュルスの酒場でお会いしたと聞きました。その時柳也さんは詩人の格好をしていたとの話でしたが、そのようなお方をお見掛けにはなりませんでしたか?」
「ああ、あの時の詩人さん。彼が柳也さんなのですね」
 そういえばあの時の詩人さんはユリアンと似たような格好をしていて、詩人さんには不釣合いな刀を持っていたなと、シオリは思い出したのだった。
「それで、私の目がどうかしたんですか?」
「はい。柳也殿はこう私に話しました。ミュルスの酒場で出会ったシオリという名の少女、彼女はユリアンと同じ目をしていたと……」



「何だって?ユリアンとシオリが同じ目をしている!?」
 ミシオの言葉に、ユキトは半信半疑ながらもユリアンとシオリの目を比べてみた。
「…どうですユキトさん。貴方が見た感じは?」
「むう…確かに同じ目をしている…」
「ミシオさん、ユキトさん…。本当に、本当に僕とシオリは同じ目を…」
「あの…皆さん、私とユリアンが同じ目をしていると何か問題でも?」
 周りの空気が何やら重いことがシオリは気にかかり、皆に訊ねてみた。
「はい…。ユリアンさんと同じ目をしているということは即ち…」
「ミシオさん!僕と同じ目をしているからってシオリが僕と同じ”運命の子”と限った訳じゃ…」
「”運命の子”?」
「あっ…」
 熱くなる余りうっかり口を滑らせてしまったユリアンは、急いで言葉を飲み込もうとしたが、時既に遅かった。
「ユリアン。お前が話したがらないなら、俺が話すが?」
「いえ…僕が話します……」
 ユリアンの心の中で一つの決心が着いた。そしてユリアンはシオリに対しゆっくりと語り出した。
「いい、シオリ。”運命の子”っていうのは、十五年前に起こった死食を生き残った子供を表しているんだ……」
「えっ、それってもしかして神王教団が掲げている”神王”?」
「神王?そんな者はこの世に存在しないよ!あれは教団が勝手にでっち上げたものだ。だって彼等は自らが掲げる”運命の子”の国を滅ぼしたんだから……」
「”運命の子”の国を滅ぼした…。もしかして……」
 今のユリアンの言葉に、シオリはハッとした。今までの会話から察するにその”運命の子”とは…。
「もしかして、その”運命の子”っていうのは……」
「そう、シオリの思っている通り僕のことなんだ……」
「やっぱり…。でもその根拠は?ユリアンが”運命の子”だっていう証拠はあるの?」
「うん…。エル=ファシルが滅亡して東国に逃れた時、八百比丘尼様にお会いする機会があったんだ。その時僕はこう言われたんだ、『貴方の目は魔王のようで魔王でない、聖王のようで聖王でない。ただ、二人と同質のものであるのには変わりがない。貴方は間違いなく”運命の子”だ』って…。
 八百比丘尼様は魔王が生まれる前から生きているって話で、魔王、聖王とも面識があるってことだった。だから八百比丘尼様の仰ることは僕は信用出来ることだと思う」
(魔王のようで魔王でない、聖王のようで聖王でない……)
 その言葉にシオリは思い出すものがあった。


「魔王のようで魔王でない、聖王のようで聖王でない…。貴方はそんな不思議な感じがします……」

 以前サユリの護衛の任を受けてオーベルシュタインの元を訪ねた時、オーベルシュタインがシオリに言い放った言葉。目と全体の雰囲気という違いはあるけど、言っていることは同じに等しいとシオリは思ったのだった。
(……)
 しかし、自分が”運命の子”かもしれないという疑惑は、シオリにはまったくといっていい程受け取り難いものだった。
「けど、やっぱり僕自身自分が”運命の子”だっていう自信が持てない。だから僕はランスに来たんだ」
「このランスには”運命の子”かどうか確かめられるものがあるの?」
「うん。聖王がアビスゲートが再び開く日に備えてゲートを閉じる力を持った者を選ぶ為に遺した試練。その試練がランスの聖王廟にあるんだ。
 その試練を潜り抜け、試練を潜り抜けた者に与えられる聖王遺物を手に入れることが出来たなら、僕は”運命の子”だっていう自信が持てる」
「聖王の試練…」
 それがどのような試練かは分からない。けど、シオリは自分も受けてみようと思った。出来ることなら自分は”運命の子”などでありたくはない。けど、もし、もしその試練を潜り抜けられたならば……。


…To Be Continued


※後書き

 前回より一ヶ月以上間を空けていましたが、ようやく新展開の開始です。この新たな展開にタイトルを付けるとしたら、「神王教団編」という感じです。そんな訳で、冒頭は神王教団長の演説から始まったりしています。
 また、原稿用紙三枚近くに及ぶ演説は、「新興宗教の教祖様はこんな感じだろうな」というノリで書きました(笑)。原作のティベリウスは神王の存在を信じていたようですが、「ロマカノ」の教団長は神王の名を借りて自分に都合の良い世界を築こうとしている奴に過ぎないです。早い話、「ロマカノ」における神王教団はΩ真理教を大きくしたようなものだということです(笑)。
 ちなみに神王教団は名前こそ「神王教団」ですが、中身は「銀英伝」の「地球教徒」です。作品の性質上神王教団の名は変えられないと思いましたので。
 さて、今回ようやく美汐が登場して参りました。未成年者が当主というのは違和感あリまくりですが両親が早く死んだとか無理矢理な設定で当主にしました(爆)。ともかくこれでKanon勢は全員出場しましたね。
 また、AIR勢では神奈の母が名前だけ登場しました。八百比丘尼というのは名前というより俗称という感じなのですが、肝心の名前は分からないので八百比丘尼で通すことにしました。
 ちなみに分かる人には分かると思いますが、イーリスとは「ロマサガ2」に出て来たキャラクターです。背中に羽が生えているという共通点から「AIR」の翼人はイーリスということにしました。
 さて、今回は栞中心に話が進みましたが、次回もシオリ中心に話が進みそうです。今まであまり目立った活躍をしていなかった栞ですが、ようやくメインキャラの一人として活躍し始めるという感じです。では。

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